朝まで生テレビ3月25日の勝間和代氏の発言:
「そういう風に、放射性物質が、多分、実際よりもかなり怖いと思われていることに問題があるんではないかと思うんです。
・・・例えばチェルノブイリの問題というのは、例えばチェルノブイリで何が顕著に上がったかというと、小児の甲状腺がんは確かに顕著に上がったんですよ、10倍ぐらいになったんですが、それ以外の病気というのは、顕著に増えた例というのは、いろいろ研究しているんですけど、なかなか、正直言ってクリアには見えてこない。また今回の原子力の問題についても、じゃあ死者が出ましたかということについて、津波の死者に比べて全然、これ比べていいのかどうか分かりませんけれども、やはりその、何ていうんでしょう、報道のされ具合と、死者の多さというのが、バランスが悪いと考えています。」
以下、ネット上いろいろなところで批判されていることですが。
・放射性物質が実際には思っているほど怖くないというが、そうすると例えば福島第一原発の周辺住民の避難も不要という趣旨だろうか?チェルノブイリの原発のそばは立ち入り禁止になっているわけだが、そういうのも不要という趣旨だろうか?ロシアが放射性廃棄物を日本海に投棄した際、日本は抗議したのだが、それも間違いということだろうか?もっと言えば、原発が爆発しても全然怖くないということだろうか?(後ろのチェルノブイリのくだりを聞くと、そういう風にも聴こえるのだが)
おそらくこれらに対しては、「『実際よりもかなり』怖いと思われてると言っているだけ、つまり、思っているほど怖くない、というだけで、全く怖くないとは言っていない」と答えるのだろう。
では、どの程度「怖くない」のか。半径30kmの人が家に1ヶ月以上帰れないとか、放射線量が高く出荷停止になった野菜や魚が出ていることとか、IAEAの定める基準(年間0・01ミリシーベルト以上の放射線を出せば放射性廃棄物として扱う)をはるかに超える放射線を出す廃棄物(瓦礫。1mはなれたところから毎時(!)1~2ミリシーベルト出ている)の処分の目処が立たない(
引用元)とか、そういうのは別に怖くないという趣旨だろうか。それはおかしいだろう。
まさかとは思うが、福島-東京間くらい原発と離れていれば怖くないという趣旨?福島にも人は住んでるんだぞ。
・その他の病気が本当に増えていないかどうかはともかくとしても(*)、小児の甲状腺がんが増えただけで十分問題だろう。
・放射線による身体への影響として主に心配されているのは、浴びて即死するというようなケース(それももちろんあるが)というよりは、染色体の損傷を通じてガンを引き起こすというケースについてである(特に放射性物質を摂取したことによる内部被爆の問題である)。よって現時点で死者が出ていないから問題ないということにはならない。「比べていいのか分からない」というが、比べていいはずがない。
また、CNNなど海外メディアも連日福島第一原発の件をニュースで取り上げており、日本のマスコミの報道姿勢のみが問題というわけではない。
(*)実際には、研究によればチェルノブイリでは小児甲状腺がん以外増えていない、というのは、虚偽に近い。がんの発症には、一定の期間がかかるからである。以下
Wikipediaチェルノブイリ原子力発電所事故より。
これまでのところ白血病の識別できる増加は無いが、過去の被曝者の健康調査の結果、白血病は被曝から発病まで平均12年、固形癌については平均20 - 25年以上かかることが分かっている[11]。このことから、白血病および固形癌が通常に比べてどれだけ増加するのかは継続的な調査によって判明すると予想される。
ちなみに、事故直後の予想は以下の通りである。同じく
Wikipediaチェルノブイリ原子力発電所事故より。
1986年8月のウィーンでプレスとオブザーバーなしで行われたIAEA非公開会議で、ソ連側の事故処理責任者ヴァシリー・レガソフ(英語)は、当時放射線医学の根拠とされていた唯一のサンプル調査であった広島原爆での結果から、4万人が癌で死亡するという推計を発表した。しかし、広島での原爆から試算した理論上の数字に過ぎないとして会議では4,000人と結論され、IAEAの公式見解となっており、2005年にも同じ数字が公式発表された。しかし、癌、白血病患者数の因果関係を判定するのは困難であり、精神的ストレスが主な原因だと主張する専門家もいる。このフォーラムの報告では、約4,000人の小児甲状腺癌患者が発生し、そのうち9人が死亡している。また、癌死亡者数の見積もりは調査機関によっても変動し、世界保健機関 (WHO) は汚染地域住民に対する5,000件を加えた9,000件[4]、国際がん研究機関 (IARC) は、ヨーロッパ諸国全体(40ヶ国)の住民も含め、1万6,000件[5]と見積もっている。
なお、冒頭で引用していないが、勝間氏発言のあと田原総一郎氏が「チェルノブイリの原発事故が起きた時には、・・・・・新聞や何かは、5万人6万人死んでるとか、大変なことになってる、(と言っていたが)それが死んでなかった、50人だった」と述べている。これはいつ時点の話なのか、(私が聞いた際は言葉遣いからはチェルノブイリ事故直後のことのように聞こえたが、)不明であり、いずれにせよ上記ウィキペディアの記述とは大きな齟齬がある。
さて、その後勝間氏は
「原発事故に関する宣伝責任へのお詫びと、東京電力及び国への公開提案の開示」という文章を発表した。上記引用の無茶苦茶発言を取り消したのかと思いきや、
私が、事故後のコメントにおいて、過去のデータや科学的根拠ばかりを強調したあまり、多くの方々が感じている将来への不安や精神的なダメージやに対する配慮を欠くコメントをししまったこと、また、不愉快と思われる発言を行ったことについて、重ねて深くお詫び申し上げます。
とあり、間違いは言っていないが配慮を欠いた、という趣旨だったようである。(本当は「配慮は欠いたが内容は正しい」と言いたいのだろう。)上記の通り、問題は配慮云々ではなく、事実の評価が現実離れしている点なのだが。
さらに、責任転嫁しているところもある。
「また、もう一つの強い反省は、政府及び電力会社が組織内に包含するコンプライアンスの課題を理解していなかったことです。・・・東京電力による情報開示の遅れ、政府の指揮命令系統の混乱などは、有事であるにも関わらず、平時の「法令遵守」にこだわった結果として発生した人災です。このような、マネジメント上のリスクの顕在化が今回の事故の深刻化長期化を招いていることは否めません。・・・特に、初動における菅政権の対応には下記のような重大な問題がありました。
・冷却機能喪失に伴う燃料融溶リスクの過小評価と情報開示の遅れ
・燃料融溶に伴う水素爆発リスクの過小評価
・現場の混乱を助長した菅首相の現地視察
・SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)など気象データ開示の遅れ
・放射線量と健康への影響に関する不適切な情報開示」
勝間氏は原発の安全性・有用性のPRのためのCMに出演しており、原発の安全性自体に問題があったとのスタンスは避けたいのであろう。そのためか、今回の事故は政府・東電のマネジメントの問題であるといわんばかりである。
しかし、上記引用部に列記された要素のうち純粋に事故の深刻化・長期化に寄与した「人災」的要素は、大まかに言えば水素爆発リスクの過小評価(弁開放の遅れ)くらいである。例えば、情報開示が遅かったとして、それで原発の状態が変わるわけではない。やはり今回の事故は、基本的には技術・設計・施設上の問題(立地・非常用電源破損のリスク分散失敗・燃料棒保管プールの位置etc.)であろう。(厳密に言えば、10km圏内の住民が批難範囲の拡大で何度も避難場所を移ったというような、政権側の判断が招いた深刻化の要素もないでないが、まあ、最初の退避命令で、将来の危険拡大も踏まえたぴったりの区域に退避命令を出せというのも酷な話であろう。)
やはり、電力業界から金を貰ってしまうと、シンパになってしまうんだな。
全然関係ありませんが、私東電に知り合いがおりまして、今回の事件が起きるはるか前、「原発、安全ですよ」と言ってました。「聞いてないし」と思った記憶があります。でも、とっても頭のいい方でしたよ。まあ日本を代表する大企業ですから、当たり前ですけど。