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2011年6月12日日曜日

みなみは感動するのが仕事だった

映画『もしドラ』(「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」)を観た。
とてもよくできた映画で、クライマックスはもちろん、前半もサクサクとストーリーが展開していく様は見事だった。映画というのは必ず中だるみするもの(ナイト・シャラマン)であるからして、ここをうまく突破するのは大変難しいことである。
主演の前田敦子の演技も大したもので、最初の5分位であまりのうまさに「おおっ」となる。『マジすか学園』などと比べると(前田の演技はAKB全体の中では上の方だと思うが)格段に良い。監督の演出力の確かさをそこにみた。(とは言え峯岸みなみの方は若干苦しい。『マジすか学園2』ではそんなに悪くないように思えたが・・・。)心に闇を抱えたみなみ役は、内に秘めたタイプのあっちゃんによく合っている。
野球ムービーということで、野球シーンのリアリティーも重要なのだが、まあ『メジャーリーグ』シリーズレベルを求めるのは無理と言うものだろう。『ルーキーズ』よりはましであったとは言っておきたい。そもそも、野球選手のリアル感は、単に投打のフォームだけでなく、選手の肉体(特に尻のでかさ。他に身長・肩幅・日焼けなど)、さらに何もしていない時の選手の所作(グローブをひん曲げる・帽子のつばをひん曲げる・ユニフォームのズボンのすそを直すなど)に現れるものである。野球をやっているとグローブの形がすごく気になって、始終嵌めてないほうの手でギュウギュウやって形を直すんだよね。それと、注意したいのが、グローブを反対の手の拳でポンポンとやる、あれである。あれは、一目見るだけでやったことのある人かない人かが分かる。なにが違うんだろう・・・。
映画の話であった。ストーリー展開については、以前原作段階からの欠点について一点苦言を呈したところであるが、映画になってみると、あれがないとストーリーとして持たない(要するに2時間持たない)のだろうな、という気がする。とにかく、主人公は選手でなくマネージャーなのであるから、ラストの試合で大活躍というわけにはいかない(特にこの映画では。後述)。

映画を観るまで気づかなかった点を1つ。
主人公は、友人の夕紀から「野球部がもし(目標とした)甲子園への切符を手に入れられなくてもいいと思う。大事なのはプロセスだと思う」と言われて、「自分としては結果を大事にしたい」と反論し、後で猛烈に後悔する羽目になる。ドラッカーからすれば主人公が正しい、なぜ後悔するような展開にするのだろうか、と当初思っていたが、よく考えると、夕紀も正しいのである。
すなわち、マネジメントとは、明日のために今日決断することである。つまり、不確実な未来のために今なすべきことをなすのがマネジメントなのである(と、まさにドラッカーの『マネジメント』に書いてある)。最善を尽くしても、結果として失敗することはある。成功のリスク(可能性)に賭けて今最善を尽くすことがマネジメントにとって最も重要なことなのである。今、という一点でみて見れば、マネジメントとは、まさに結果に至るプロセスでしかありえないなのだ。実際、県予選の決勝、マネージャーのみなみに、(ベンチで選手の心の支えとなる、という点を除けば)何の出番もないのである。彼女は、ただ結果を見守り、感動する(まさにこの時みなみも野球部の『顧客』となっているのだ!)他に、何もすることはない。これが、この映画のストーリー中最もドラッカー的なところであり、よって下世話な世間に媚びない真摯・誠実なところであり、よってこの映画のもっとも感動的なところなのではないか、と思う。みなみが監督や選手に代わりなにかアクションを起こしてそれで試合に勝っていたりしたら、かなりのトホホ映画になっていたろう(それをやってしまったのが、信長も光秀も死の瞬間に主人公を思い出すという俺様(?)ドラマ『江~姫たちの戦国~』である)。
そう考えてみると、昨今政治家(マネジメント!)の資質として盛んに言われている「リーダーシップ」というものも、よく考えて使う必要がある。リーダーシップで物事を解決したと外部の者に一目瞭然分かるようなのは、真のリーダーシップとは言えないのだ。この映画のみなみのような活躍こそ、本当のリーダーシップなのである。
それにしても、映画中盤、監督(高校教師)の采配に憤慨する後輩マネージャーに対し、「監督をマネジメントできなかった私たちの責任」と言い切る高校生女子マネージャーみなみの潔さ!昨今の政治情勢に対し、「政治/与党/総理/マスコミが駄目だから」で済ませている人々は、これを観て猛省すべきではないだろうか。「この程度の国民にこの程度の政治」の語もある。

また話が飛んだが、みなみの反論「結果にこだわりたい」も間違いではない。実際のマネジメントにおいては、ある結果に向かって取り組みを行っている最中でも、時間の経過とともに状況は刻々と変わっていく。一度決めたことでも、状況に応じ日々て新たな対応をしていくことが必要なのである。つまり、「一度決めたことを一生懸命やってるんだからいいじゃん」では済まないのであり、全ての行動が目標の達成に最適なものとならなければならない。その意味ではやはり「結果にこだわる」ことが必要なのである。要するに、マネージャーの主観では結果思考で、それを外から見る者はプロセス思考で考えればよいのではないだろうか。

本作は200万部超のベストセラーの映画化であり、主演は国民的アイドルグループの中心人物、というわけで、それなりのヒットが期待されているわけであるが、読者=映画ヴューワー、ではなく、AKBファン=前田敦子ファン、でもない。実際、初期動員は若干苦しいようである。(まあそもそも映画は典型的な「アドベンチャービジネス」であるからして、どんな映画だろうと、必ず当たるという見込みなど全くないのであるが・・・)いい映画だと思うんですけどねえ。

なお、大泉洋は毎度ながら演技がうまい。原作・アニメでこの作品に触れていた人は、「ああ、監督はこういう人だったんだ」とあらためて納得したはず(理科室のシーンの演技など本当にうまい)。第二の竹中直人は君だ!!

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